Web Seminar

CAFEトーク

豊島逸夫:
2025年 トランプ時代突入
新しい「常識」の先

いやはや、2024年の金市場は、凄いことになりましたね。1グラム15,000円を超えるなど、1970年代から金相場と向き合ってきた筆者は、未だに信じられない、というのが本音です。しかも歴史的超高値にもかかわらず「購入」客が多いという事実。日本の金業界の常識として、安値になると買いが入るが、高値になると売り戻しが増えたものです。それが今回は見事に覆されたわけで、それだけ「不透明な将来に備える資産」として金が認識されていることの証といえます。「安く買って高く売れれば一儲け」の発想は今や少数派になった感があります。

特に、北朝鮮ミサイル発射、台湾有事の可能性の脅威が、日本国民にとって現実味を増しており、トランプ時代ともなれば「有事」に日本が巻き込まれる展開に備える必要を感じている人たちが増えることをセミナーでの質疑応答で痛感しているところです。

更に、もう一つの「常識」も覆されました。海外でNY金が上がっても円高で相殺され、結局円建て金価格は大して動かないという過去の傾向です。今や円が沈みゆく通貨と懸念され円安が160円まで進行したなかで、NY市場ではドル建て金価格が史上最高値を更新したわけですから。かたや未だにデフレからの脱却に苦戦している日本経済と、対照的にインフレ・マインドが定着してしまった米国経済の対比が鮮明です。

では、この傾向は今後も続くのでしょうか。結論からいえば、2025年も大きく変わることはないでしょう。但し、ドル円相場には注意が必要です。日銀の利上げ、そして、米国の利下げが予想され、円高要因も無視できなくなるからです。2024年は、ドル建て金価格史上最高値更新と超円安が同時進行して「棚ぼた」的利益を享受しましたが、そう「都合の良い話」ばかりは続かないと筆者は冷ややかに見ています。

そして、世界に目を転じれば、歴史的高値圏で「利益確定売り」をしたくてウズウズしている投機家がごまんといるのですから要注意です。この人たちは、相場が上がっている間は少しでも高く売りたいとキョロキョロ様子見の姿勢なのですが、例えばカリスマ投資家がそろそろ売りか、などと呟けば一斉に売りに走る傾向があります。中国やインドという文化的金選好度が高い国での金保有者も、例えば1トロイオンス1,000ドルで金を買った人が3,000ドル近くになったら、さすがに売りの誘惑に駆られる事態も想定すべきでしょう。

有史以来採掘された金の地上在庫はざっくり21万トン。この一部が還流してくる局面も見られるかも、と筆者は覚悟しています。なお、私が貴金属部アドバイザーを務めた中国の大手銀行では、高値の金に手が届かない顧客の間で、「貧者の金」と言われる「銀」の1オンス・メダルが売れ筋になっているそうです。

かくして、買いの一極集中ばかりではない2025年は、歴史的高値圏での乱高下に備える必要があります。そこで威力を発揮するのが、純金積立。日本では、新NISAの普及とともにコツコツ積み立てが主流になってきました。筆者は金の世界では1980年代から定額積立がメインの商品であったので、今頃そのメリットに気が付いた株式市場より先輩格なのだ、と威張って話しております。

なお、機関投資家からも色々聞かれる機会が急増しているのですが、既に金を保有しているケースで金価格急騰の結果、全資産に占める金の割合が20%を超えてしまった、という事例が少なくありません。プロの資産運用では、例えば、金の運用比率は5%まで、などと決めて、それを上回ると売って元の比率に戻すことが「常識」なのです。これを「リバランス」と言います。では、個人の資産運用でもリバランスを考えるべきでしょうか。

これは、個人の資産状況次第ですから正解はありません。金価格高騰の恩恵の中で、超円安による部分は海外旅行の経費に充てる、という発想はアリでしょう。私などは、金の保有分に関しては平均ドル円相場が110円程度で買っていますから特に金を売ることなく、心理的に円安デメリットを感じず、海外で気楽に買い物や食事をして楽しんでいます。仮に積み立てた金を売って旅行資金に充てると、金の売買差益を税務申告せねばなりませんから心理的な節税対策、というところでしょうか。

なお、本コラムは純金積立会員限定ですが、今や新規参入も増えています。新NISAの影響が効いていますね。例えば若手の働く女性向けゴールドセミナーで事前アンケート調査をしたところ、7割の参加者が「老後」と書いてきました。「金価格の下値はいくらぐらい?」という質問も多く、バブル世代の「どこまで上がる?」というギラギラ感溢れる質問と対照的でした。このような堅実な事例に触れると毎月購入額を増やすという選択肢も当然増えてくると確信しているところです。

豊島 逸夫 国際経済アナリスト

一橋大学経済学部卒。大手都市銀行入行後、スイス銀行にて外為貴金属ディーラーに。チューリッヒやニューヨークの国際金市場で経験を積んだ後、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)にて金の調査研究に従事。WGC退社後、独立し豊島逸夫事務所を設立。守備範囲を国際経済全般に広げ、市場分析や講演、執筆等を中心に活動する。