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CAFEトーク

豊島逸夫:
新型コロナウイルス後の
「金」を考える

原油価格を暴落させ、世界中で連鎖的な企業破綻をもたらした新型コロナウイルス。この有事にあって、国内では40年ぶりの高値を相次いで更新した金は今後どういった状況になっていくのでしょうか? 世界のマネーと金の関係を考えてみましょう。

新型コロナウイルスの影響で、世界中のモノとヒトの流れが止まりました。「モノ=商品」の代表格である原油と金にも信じがたい出来事が勃発しました。
まず、需要激減による原油価格の暴落。それも一時はマイナス37ドルにまで下がりました。マイナス価格といってもピンときませんが、要は世界的に原油がダブつき生産された原油の保管場所がなくなってしまったのです。停泊中の全てのスーパータンカーも原油の「運輸手段」ではなく当面の「保管場所」として使われました。その「保管料」が暴落中の原油そのものの価格より高くつき「マイナス原油価格」となったのです。
対して、金の円建て価格は40年ぶりの高値を相次いで更新。連鎖的に企業破綻が生じるなか、世界的に「安全資産」としての需要が急増したのです。それも今回は「現物」の金が高値圏で買われたことが特徴です。先物取引中心のNY金市場でさえ現物の受け渡しを望む人たちが目立ちます。世界的に個人が「現金」を退蔵する傾向が見られますが、「金」も実物を手元に置いて巣ごもりたいとの本能的行動と思われます。その結果NY市場では現地仕様の金地金が不足となり、NY金先物価格が大幅に割高になるという珍現象まで生じたのです。
供給過剰となった原油と比較すると金の特性が際立ちます。金はかさばらず凝縮された希少価値がある。おそらく有史以来採掘された金の総量は、スーパータンカー1隻に十分積載できるほどでしょう。さらに、金には「モノ」だけではなく「おカネ」としての顔もあるということ。原油は純粋なモノですから不況になれば需要は減ります。対して、金は不況だからこそ「安定」した資産として買われ、世界の中央銀行までも「外貨準備」として金の公的保有を増やしつつあるのです。ちなみに原油は外貨準備にはなりません。ただし、モノとしての金の需要(宝飾、工業用など)は景気の影響を受けるでしょう。金地金もサプライチェーンが分断され、一時的に供給不足が生じました。
そして、今後はさらに金が買われやすい経済状況が待っています。それは有事対応のため日米欧で実行または予定されている量的緩和。その量がリーマンショックを凌ぐ未曽有のマネーばら撒きです。委縮した世界経済規模と過剰なマネー供給の結果、通貨価値が薄まる結果が予想されます。数年後の事ですが、長らく忘れられたインフレの懸念が生じる可能性もあります。「刷れるドル・円」「刷れない金」の差が鮮明となりそうです。

豊島 逸夫 国際経済アナリスト

一橋大学経済学部卒。大手都市銀行入行後、スイス銀行にて外為貴金属ディーラーに。チューリッヒやニューヨークの国際金市場で経験を積んだ後、ワールドゴールドカウンシル(WGC)にて金の調査研究に従事。WGC退社後、独立し豊島逸夫事務所を設立。守備範囲を国際経済全般に広げ、市場分析や講演、執筆等を中心に活動する。