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20年ぶりに新札登場!
知っておきたい
日本の紙幣の歴史

2024年7月3日に一万円札、五千円札、千円札が改刷され、2004年以来20年ぶりに新しいデザインのお札が登場しました。この機会に日本の紙幣の歴史を振り返るとともに、新紙幣のデザインや最新の偽造防止技術について確認しておきましょう。

紙幣はなぜ生まれたの?

人類が最初に使ったとされる「お金」は家畜や食べ物など、物々交換できる「物品貨幣」だったと言われています。しかし、物品貨幣には保管が大変な上に時間の経過とともに価値が失われるという欠点がありました。そこで紀元前7世紀ごろに登場したのが、金や銀、銅などを使った「金属貨幣」です。時間が経っても品質が劣化しにくい金属貨幣は、価値を失わないお金として世界各地で使われるようになりました。ただし、金属は産出地域が限られていることもあり、貨幣に利用できるだけの量を常に確保できるとは限りませんでした。さらに、金属貨幣はまとまった量になると重くて、持ち運びに不便という問題も。そこで考えられたのが、紙のお金「紙幣」です。世界で最初の紙幣は10世紀に中国で発行された「交子(こうし)」で、当初は金属貨幣と交換できる私札(民間発行の紙幣)だったと言われています。現存する日本最古の紙幣「山田羽書」(1610年ごろ発行)も、伊勢神宮近くの山田町で商人たちが預かり証として使っていた私札です。当時の山田町には伊勢神宮の参拝者が全国から大勢集まっていたため、釣銭として大量の銭貨が必要でしたが、羽書を発行することで銭貨を大幅に節約できたと言われています。その後、関西では主に金属貨幣が手に入りづらい山間部などで、山田羽書と同様の私札が発行されましたが、17世紀中ごろには姿を消し、山田羽書のみが明治の初めまで使われていました。このほか、江戸時代には各藩が幕府の許しを得て金属貨幣と交換できる紙幣「藩札」を発行しましたが、これも各藩の領地内という限られた地域のみで使える紙幣であり、全国で通用する紙幣が発行されたのは明治時代に入ってからのことでした。

全国で使える紙幣の誕生が物価へ影響?

日本で初めて発行された全国に通用する紙幣は、1868年に明治政府が発行した「太政官札(だじょうかんさつ)」です。現在日本で紙幣を発行できるのは日本銀行だけですが、1882年に日本銀行が設立されるまでは、政府が太政官札をはじめとした「政府紙幣」を、国立銀行が「国立銀行紙幣」を発行していました。これらの紙幣は江戸時代の羽書や藩札と違って金や銀との交換が保障されない「不換紙幣」だったので、政府や銀行は保有している金や銀の量に制約を受けることなく、好きなだけ紙幣を発行できたのです。しかし、物の生産は増えないのに紙幣ばかりがどんどん出回ることになったため、「お金はあるのに、物が足りない」という状況が生まれ、結果としてインフレーション(お金の価値が下がって、物価が高騰する状況)が起きてしまいました。そこで政府は物価の安定を図るべく紙幣の整理を行い、1882年には日本初の中央銀行「日本銀行」を設立、1885年には金や銀と交換できる紙幣(兌換紙幣 だかんしへい)として日本銀行券を発行しました。記念すべき初の日本銀行券は1円銀貨10枚と交換できる「日本銀行兌換銀券」の10円券で、表面に大黒様の図が書いてあることから、通称「大黒札」と呼ばれています。

明治時代のお金が今も使える!?

1885年の大黒札(旧1円券)発行以降、日本銀行は改刷(お札のデザイン刷新)を重ねました。2024年7月の改刷分を含めると、これまでに計56種類のお札を発行してきたことになります。このうち31種類はすでに法令により通用力を失っているので使用できませんが、残り25種類は今もなお使用することができます。実は1885年発行の「旧1円券」や1889年発行の「改造1円券」も、まだ通用力を失っていません(発行は終了)。明治時代に作られた紙幣がまだ通用するなんて、意外に思われた方も多いのではないでしょうか。ただし、実際には古いお札は使いづらいもの。こういった流通に不便なお札は日本銀行の本店・支店で、現在発行されている銀行券と引き換えることができます。

※現在も有効な紙幣の種類は
 日本銀行のウェブサイトで確認できます。 https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/note/valid/past_issue/index.htm

お札の「顔」はどうやって決めるの?

続いて、2024年7月から発行された新札について見ていきましょう。新札の「顔」として肖像に採用されたのは、渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎の3名です。

肖像をはじめとするお札の様式は、通貨行政を担当している財務省、発行元の日本銀行、製造元の国立印刷局の三者で協議し、最終的には日本銀行法によって財務大臣が決めることになっています。肖像になる人物の選定には特に基準はありませんが、主に①「日本国民が世界に誇れる人物で、教科書に載っているなど、一般によく知られていること」、②「偽造防止の目的から、なるべく精密な人物像の写真や絵画を入手できる人物であること」という理由で、明治以降に活躍した著名な文化人の中から選ばれています。ちなみに、お札のデザインに肖像が描かれているのは、人の顔や表情のわずかな違いにも気がつくという人間の目の特性を利用しているからだそうです。

新札を手にしたら、ここに注目!

今回のお札の改刷は2004年以来、20年ぶりのこと。これまでも日本銀行はほぼ20年に1度のペースで改刷を行ってきました。せっかく目に馴染んだお札を、なぜわざわざ改刷するのでしょうか?

その答えは、偽札を作らせないため。改刷を行って新たな偽造防止技術を加え、デザインも一新することによって偽造を防いでいるのです。例えば今回の新札では、以下の2つの新たな偽造防止技術が採用されました。

このほかにも新札には、お札を傾けると左右両端の余白部分にピンク色の光沢が見える「パールインキ」が使われていたり、表面に額面数字(1000、5000、10000)が、裏面には「NIPPON」の文字が見える「潜像模様」が入れられていたりと、高度な偽造防止対策がいくつも施されています。新札を手にしたら、日本銀行が150年の間に培った偽造防止技術の結晶を、ぜひ皆さんの目で確かめてみてください。

参考文献:
ビジュアル 日本のお金の歴史【江戸時代】/岩橋 勝・著(ゆまに書房)
ビジュアル 日本のお金の歴史【明治時代~現代】/草野 正裕・著(ゆまに書房)
参考サイト:
日本銀行「現在発行されていないが有効な銀行券」 https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/note/valid/past_issue/index.htm
日本銀行「教えて!にちぎん」 https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/money/c07.htm#:~:text=
国立印刷局「お札の歴史(明治)サイト」 https://www.npb.go.jp/product_service/intro/ostu_history/osatsu_history2.html
国立印刷局「新しい日本銀行券特設サイト」 https://www.npb.go.jp/ja/n_banknote/