Precious Metal Price Trends

貴金属の価格動向

何が価格を動かした?

貴金属価格は世界の様々な情勢によって推移しています。
この複雑なマーケットを読み、総合的に判断して、売り買いを執行することが「トレーダー」の役割です。
田中貴金属のトレーダーが、2024年6月から11月にかけての金・プラチナ・銀価格の動向を振り返ります。

金価格の動き

金価格の動き

2024年6月、ドル建て金相場は1トロイオンス2,300ドル近辺でスタートすると、当初は高金利環境に伴う経済減速に対し、欧米での利下げを中心とした金融政策が念頭に置かれた。特にFOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ時期と回数が焦点となり、経済指標の結果を意識した展開がみられ、2,400ドルをめざす展開となった。しかし、中国の中央銀行が18ヵ月連続で続けてきた外貨準備の金購入を5月からゼロとしたことが報じられた。近年の金相場の上昇基調を支えてきた材料の一つであったことから投機家の警戒心が強まり、6月以降では最安値となる2,300ドルを割り込む水準まで下落した。中国中銀はこの後も購入を停止した状況を続ける一方で、その他の国の中央銀行の購入は続き、徐々にその影響は低下し、7月前半までは中国の存在感の減少の影響が顕著となり上値が抑えられる状況が続いた。7月13日の土曜日に米大統領選候補であるトランプ氏の暗殺未遂が報じられると、同氏の当選確度が上昇し、当人によるドル高を懸念する発言はドル安を助長し一時2,500ドル目前まで上昇することとなった。暗殺未遂に伴う市場の混乱も徐々に一巡していくことになり、金相場も次第に落ち着きを取り戻し、7月末時点に2,400ドル台で終えると、市場の注目は再び米国の金融政策、特に9月の利下げを意識した動きや、緊迫度が増していくイスラエルとパレスチナをめぐる中東情勢などが投機資金を呼び込むこととなり、金相場は8月には2,500ドル台へと値を上げた。中東情勢はイスラエルとパレスチナの戦争から、周辺国を巻き込み戦闘が激化したことで、地政学的リスクを一層意識する状況へと推移していくこととなった。一方米国では9月18日にFRB(米連邦準備制度理事会)が市場予想を上回る0.5%の利下げを発表。およそ4年半ぶりとなり、利下げ幅も段階的利下げでなく、大幅な利下げ発表となったことで、金相場は2,600ドル台へとのせ、そして2,700ドルを目指していく展開となった。市場の関心は金融政策や地政学的リスクを意識しつつも11月の米大統領選へと軸足を移していくこととなった。10月中旬以降は個別の材料に左右される展開というよりも、トランプ氏優勢が報じられる中で大統領選以降の将来に対する不透明感や不安感に対する準備の側面が強かったとみられ、買いが買いを呼ぶ展開が続くこととなり、10月末には2,800ドル台へと上昇することとなった。11月5日の米大統領選はトランプ氏率いる共和党が圧勝した。結果の精査は別として、本年予定されていた一番のイベントが完了し不透明な将来像に現実的な方向性が示された形となり、金相場はいったん狂騒的な買いに対する利益確定の動きが出て11月初旬現在は2,600ドル台半ばを推移している。

プラチナ価格の動き

プラチナ価格の動き

2024年6月、ドル建てプラチナ相場は1トロイオンス1,000ドルを超えた水準から始まり、大きな流れでみると、9月前半までは総じて軟調な地合いが続き900ドル近辺まで下落して底を打った。その後は11月の米大統領選までは再び1,000ドルを超える水準へと値を戻す展開であった。FOMCでの年内利下げ時期と回数を焦点として意識し、経済指標の趨勢やFRB高官の発言などで振れる展開であった。産業メタルとしての側面から景気に対して敏感に反応する形で、FRBの比較的穏やかなスタンスでの利下げ姿勢により景気減速が意識されて、6月早々に1,000ドルを割り込んだ。7月にはトランプ氏の暗殺未遂からの次期大統領当選の確度上昇への流れがあり、これによって米中貿易摩擦の深刻化などの将来に対する不安が想起され、米株式が大きく軟化すると、その動きに追随する形で下げ幅を大きくしていき、900ドルを意識した水準まで下落した。ただ、9月11日にロシアが欧米等の西側諸国が敷く経済制裁への報復に供給コントロールを検討しているとの報道が流れると、南アとロシアに一次資源が偏在しているプラチナ系元素は急速に買い戻された。加えて9月18日に発表された米金利は0.5%の大幅利下げが実施され、景気環境を意識した下げ幅を好感する形で1,000ドルを挟んだ水準で往来相場を形成することとなった。ただ、近年産業系需要の中心的存在として立ち回ってきた中国の景況感悪化は2024年に入ってから著しく、10月の国慶節の前後で大規模な景気下支え策を発表したものの、その効果を疑問視する見方が根強く、プラチナ相場の上値は1,000ドルを大きく離れる展開は生まれなかった。10月中旬以降、米大統領選がトランプ氏率いる共和党が優位に進行する中で、金相場は買いが買いを呼ぶ急騰もみられた。この動きを追いかける形で10月末には一時1,100ドルにのせたが、この水準ではリサイクル等二次供給系の数量が膨らんだことで、早々に値を崩し11月の現時点では1,000ドルを割り込んで900ドル台後半で推移している。欧米を中心にEVシフトの流れに暗雲も立ち込め、自動車会社の業績等も大きく悪化し始めている中で、需要拡大が明確に期待しにくい点も上値を重くしている要因である印象であった。

銀価格の動き

銀価格の動き

2024年6月、ドル建て銀相場は1トロイオンス30ドル近辺で始まると、大勢としては8月初旬の26ドル台後半を下値として、その後は大きく切り返していき34ドル台中盤まで上昇するという動きであった。基本的には金相場と連動する動きが多くみられるものの、金相場に比べると通貨的側面よりも産業メタルの側面が強いだけに、9月頃までは混戦する米大統領選よりも米国の利下げ時期と回数に対する市場参加者の思惑に左右されたことで、利下げが明確化するまでは軟調な地合いが形成された。そのような中でトランプ氏当選確度の上昇が意識され、将来必至とみられる米中の貿易摩擦に関連した値動きの場面では下げ幅が大きくなり、これが8月の26ドル台までの下げ幅の大きな要因となった。しかし、利下げ以降市場の注目が中東情勢と米大統領選へと移ると金相場が狂騒的に上昇した。この動きの中で銀相場は金相場に対する相対的割安感や出遅れ感などを意識して、通貨的側面からの買いが入った為に上昇幅を大きくすることとなった。10月下旬には35ドルの大台を意識する水準まで上昇した。産業用需要で近年中心的なけん引役であった中国の太陽光需要が過剰供給と中国経済の減速に伴う調整局面に入り長引いている中で、通貨的側面への意識は強かったと思われる。ただし、トランプ氏が優位に進み、最終的に同氏と共和党が勝利した大統領選の結果の前後ではいち早く売りもみられ、投機家の景気状況に対する不安感は根強い印象を持たせることとなった。11月初旬現在は31ドル中盤で値動きしている。