Precious Metal Price Trends

貴金属の価格動向

何が価格を動かした?

貴金属価格は世界の様々な情勢によって推移しています。
この複雑なマーケットを読み、総合的に判断して、売り買いを執行することが「トレーダー」の役割です。
田中貴金属工業のトレーダーが、2023年12月から2024年5月にかけての金・プラチナ・銀価格の動向を振り返ります。

金価格の動き

金価格の動き

2023年12月に2,050ドル近辺でスタートした金相場は、12月初旬に投機的な大きな損失確定の買いが2,130ドル近辺まで入り、一日の値動き幅としては歴史的な水準となるレベルまで急伸する場面が見られた。相当に極端な動きであったが、2023年の高値を確定させたこの動きの後は落ち着きを取り戻す形で値を下げた。また米雇用統計など米国で発表される主要経済指標が軒並み市場予想を上回ったことで上値が抑えられ、中旬ごろには一時2,000ドル割れの水準まで反落する展開となった。しかし、年末には2,050ドル近辺へ値を戻し、その後は2024年2月に入るまでもみ合う相場展開となった。この間、FRB(米連邦準備制度理事会)としては、米国経済環境において利上げに伴う悪影響が大きくなる前に利下げへと転じたい狙いがあり、市場もそれを期待していたが、実際にはインフレの抑制を示す結果は期待ほど確認されなかった。これらの状況を受けて2月初旬のFOMC(米連邦公開市場委員会)では4会合連続で政策金利は5.25~5.50%の据え置きが発表され、3月の利下げの開始も適切ではないとの見解が示された。この結果、米長期金利が上昇し金相場は2,000ドルを一時割り込む場面も見られた。この利下げという出口戦略が明確に定まらない状況は欧米圏では投機筋が売りを強める一方で経済環境の先行き不安感から中華圏などでは投機筋の買いを大きく呼び込む展開となった。結果2,050ドル近辺へと値を戻して3月に入った。米大統領選における先行き不透明感を警戒しての買いが先行すると買いが買いを呼ぶ展開となり、2,100ドル近辺へと急騰していく展開となった。さらに、米国で発表された経済指標が市場予想を下回ったほか、スイス中央銀行が9年ぶりの利下げを実施した為に米国でも利下げへの期待感が高まったことで2,200ドルを目指していく展開となった。金相場を押し上げる要因として、中国人民銀行が16カ月連続で金保有量を増加させていることも投機家が買う安心感につながり、これまで売り方向にあった欧州諸国も買いに転じ始めた。4月には、これまでパレスチナ側を支持してきたイランに対してイスラエルが攻撃を開始、その報復措置としてイランもイスラエル本土への攻撃を開始した。これにより中東地域での地政学的リスクが高まりを見せると、原油相場の高騰を発端に商品相場全体が上昇し、インフレヘッジとしての需要が世界的に高まることで金相場も2,400ドル近辺まで上昇する展開となった。その後も断続的な報復措置が双方で実施されるも、決定的な打撃を与えるような攻撃は控えられ,金相場は2,300ドル台に下落した。5月に入ると再び米国で発表される各経済指標を見定める相場展開に移り、利下げへの期待感が相場を押し上げ、年初来高値となる2,400ドル台半ばを超えるまで値を上げた。

プラチナ価格の動き

プラチナ価格の動き

2023年12月に920ドル近辺でスタートしたプラチナ相場は、米格付け会社ムーディーズが中国の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更との報道が流れ、880ドル近辺まで下落した。背景としては不動産部門の不調や経済成長率の先行き懸念、プラチナの工業需要の低下懸念によるものであった。FOMCでは市場予想通り政策金利が据え置かれたものの、将来的な利下げへの期待感を含ませる内容だったことで900ドルを回復すると、1,000ドル近辺まで続伸し越年した。しかし、2024年1月に入ると2023年12月に開かれたFOMC議事要旨で早期利下げに対して慎重姿勢が示された事に加え、インフレ率を示す指標も底堅い内容が示される形となった。これらの結果を受け、早期利下げ観測は後退し、一転して追加利上げを警戒する展開となり、プラチナ相場は900ドル近辺へと下落していく展開となった。その後も米国で発表される各経済指標が総じて強弱まちまちながらも、依然として底堅い結果を示す米経済指標の発表内容を背景に目立った動きもなく概ねレンジ相場を推移する展開となった。しかし、金相場が急騰する中で次の投資商品を探す投機家の関心が集まりレンジの下値は底上げされていった。そして、4月に入るとこの上昇が鮮明化し1,000ドルを付けると、5月には一時1,100ドル近辺まで上昇した。一方で上昇する場面では数年にわたり安値圏で買っていたアジア圏を中心とする投機筋の利益確定の売りも散見され押し戻される展開が続いた。

銀価格の動き

銀価格の動き

2023年12月に25.50ドル近辺でスタートした銀相場は、米格付け会社ムーディーズによる中国の格付け見通し引き下げによる銀の需要後退懸念から下落し23.00ドルを割り込むまで下落した。その後も米国での早期利下げ観測の後退を材料としたドル高が相場を押し下げる要因となり、2024年1月には22.00ドル近辺まで続落した。この下げは3月にかけて22.00ドル割れを3回試す事となったが、割れることなく安値拾いの買いが散見された事で投機筋が買う安心感につながった。もともと欧米投資家は銀への投資意欲が高い事も相まって、3月以降は金相場の上昇に追随して上昇する展開となった。そして、4月に入ると中東情勢の緊張から急騰し、一時29.00ドル近辺まで上昇した。急上昇だっただけに利益確定の売りも出て26.00ドル近辺まで値を下げる場面もあったが、5月に入ると金相場に比べての出遅れ感を背景に投機家の買いが買いを呼ぶ状況が形成され30.00ドルを超え、一時32.50ドル近辺まで上昇した。

※1 ISM…全米供給管理協会 ※2 ECB…欧州中央銀行 ※3 PMI…購買担当者景気指数