Precious Metal Price Trends
貴金属の価格動向
何が価格を動かした?
貴金属価格は世界の様々な情勢によって推移しています。
この複雑なマーケットを読み、総合的に判断して、売り買いを執行することが「トレーダー」の役割です。
田中貴金属工業のトレーダーが、2023年6月から11月にかけての金・プラチナ・銀価格の動向を振り返ります。
金価格の動き
2023年6月に1,960ドル近辺でスタートした金相場は、米FRB(米連邦準備制度理事会)高官が6月の利上げ見送りの可能性を示唆したことで、米金利の先高観が後退し、1,980ドル近辺まで上昇した。しかし、その後のFOMC(米連邦公開市場委員会)では先の発言と裏腹に年末までに2回の追加利上げを示唆したことで金利の先高観が再度強まり、加えて欧州主要国でも利上げ観測が強まる中で、金相場は下げ基調に転換し、一時1,900ドルを割り込む水準まで下落することとなった。
7月に入ると市場の注目は米国の消費者物価指数の動向へと視点が移ることとなった。中旬に発表された同指数は物価に対して急激な鈍化が示された。金利の上昇が物価を抑え込んでいるという証左として受け止められたことから、再び2,000ドル目前の1,980ドル付近まで上昇する展開となった。この間行われたFOMCでは市場予想通りの0.25%利上げが実施されたが、米国の金利の将来的な上昇は落ち着くという見方から、金相場は総じて高値圏での足踏み状態となった。ただ、8月に入ると米国の卸売物価指数は想定よりも高水準を継続。6月からここまでの物価に対する不安定な状況は将来の予想の難しさを連想させ投機家の売買なども方向感が安定せず、金相場は1,940ドルあたりを中心のレンジとして、金融政策や物価の報道の内容を受けて上下に振られる状況を形成することとなった。
9月に入ってからも同様の状況が続いたが、9月に開催されたFOMCでの政策金利は据え置かれたものの、来年以降のGDPの見通しが上方修正された。これにより高金利状況においても景気が大きく減速しないという見立てであったことから、高金利状態はより長く継続する可能性が高いとの見方が広がり、金相場は1,900ドルを割り込んで1,800ドル台中盤まで下落していくこととなった。10月に入ってからも軟調な展開が続き4日には一時1,820ドル近辺まで下落したが、10月7日にパレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃。この報復としてイスラエルが空爆を実施すると、中東情勢の急速な緊迫化により地政学的リスクが意識され、価格自体も安値圏にあったことで金相場は急騰していくこととなった。日に日に過激化していく中東情勢を背景に、買いが買いを呼ぶ展開となり早々に1,900ドル台を回復。10月27日には一時2,000ドルを超える水準まで急上昇した。大台を突破したほか、11月に入り中東情勢に世界各国が冷静な対応を訴えたことで、買いが一巡すると足元では金相場はやや下落に転じ1,945ドル近辺で推移している。
プラチナ価格の動き
2023年6月のプラチナ相場は、1,000ドル近辺でスタートすると、6月初旬に発表された雇用統計の好結果などから景気回復への期待感が強まり一時1,040ドルあたりまで上昇した。しかし、その後のFOMCで年末までに2回の追加利上げの可能性が示唆されたことで、先の景気に対する楽観的な見方が後退し、6月下旬まで軟調な相場展開に終始し900ドル近辺まで下落することとなった。7月に入りこの水準ではアジア圏を中心に投機的な買いが見られたほか、米消費者物価指数が急激な鈍化を示すと、金利先高観が後退し、1,000ドル目前まで値を戻す展開も見られた。しかし、中国の経済指標が軒並み市場予想を下回る結果となると、近年世界経済をけん引してきた大きな需要圏なだけにその先行き不安感は産業メタルの側面で需要後退を連想させ、再び900ドル近辺に向かい軟調な展開を形成することとなった。この流れは8月中旬まで続き一時は880ドル近辺まで下落したが、再び900ドル割れの割安感を狙った投機的な買いが入ると8月後半には980ドルと1,000ドルを意識する水準まで反発に転じることとなった。ただし、2度の上昇局面で1,000ドルの大台を超えられなかった失望感は強く、9月に入ると米政策金利の見通しが修正され、ドル高が進む中で上値が重くなることとなり900ドル近辺まで下落することとなった。その後10月に入ると金相場の下落につれて下げ幅を急拡大し一時860ドル近辺まで値を下げた。中東情勢の不安に関連した地政学的リスク回避の動きから買いも入る場面も見られたが、戻りは弱く950ドルで頭打ちになると11月の足元では850ドル近辺まで下落する展開となっている。
銀価格の動き
2023年6月に23.50ドル近辺でスタートした銀相場は、基本的に金相場の騰落に追随する展開となった。ただし、7月中旬に金相場が1,980ドル付近の場面では一時25.00ドルに乗せるなど、金相場が3.5%程度の上昇となる中で11%以上の上昇となり、9月末頃まで値動き幅としては金相場よりも大きく動いた印象となった。
要因として、金相場が米金利動向をにらみ、レンジ相場を形成し高止まりした一方で、世界景気のけん引役であった中国経済に陰りが見えたことなどから、銀相場は産業用の側面などが意識されて売り込まれたりする場面が散見され、値動き幅が大きくなったことが上げられる。ただ、10月に入ると中東情勢を要因とした地政学的リスクからの買いが金相場のみならず銀相場にも入り、23.20ドル近辺で推移している。
これら3品種の状況について、ドル建てベースでこれまで語ってきたが、最終的に弊社で設定する地金価格は円建てである。この2023年6月~11月の期間、米消費者物価指数の鈍化が顕著になった7月には、円高に向かう場面も見られたが、日米金利差を要因に、7月中旬の138円から11月足元で151.70円まで円安が進行しており、国内円建て価格の上昇はこれら円安の状況に大きく後押しされたことを最後に重要な点として付け加えておきたい。