Precious Metal Price Trends
貴金属の価格動向
何が価格を動かした?
貴金属価格は世界の様々な情勢によって推移しています。
この複雑なマーケットを読み、総合的に判断して、売り買いを執行することが「トレーダー」の役割です。
田中貴金属工業のトレーダーが、2022年12月から2023年5月にかけての金・プラチナ・銀価格の動向を振り返ります。
金価格の動き
2022年12月を1,700ドル台後半でスタートした金相場は12月、2023年1月と上昇し2,000ドル目前まで上昇するも、その後2月は反動から1,800ドル台へと下落。しかし、3月には再上昇し2月の水準を上回ると、4月には2,000ドル台へと上昇した。5月には2,100ドル近くまで上昇する場面も見られたが、さすがに上昇に対する警戒感もでて5月中旬には2,000ドルをやや割り込んだ水準となった。円建て金価格も2022年に急速に円安が進んだ反動から年末年始に円高が進んだ事でやや伸び悩んだが、その後再び円安が進み始めたことで、円建て金価格が押し上げられる形となり上昇基調を形成。3月、4月、5月と過去最高値の更新が見られるなど非常に特徴的な状況となった印象であった。 この間2022年12月から2023年5月までの特徴的な市場環境として、12月FOMCで4.25~4.50%へと0.5%引き上げられた米政策金利は、その後もペースは鈍化しながらも金利引上げの決定が続き5月には5.00%~5.25%となっている事が挙げられる。一般的に金利が引き上げられる状況において、金相場は下落方向の圧力がかかりやすいと言われている。 しかし、この時市場が予測していた金利の最終到着地点は4%~5%近辺という水準であり、まさに2022年12月~2023年5月までの期間に過去、予測した地点へと金利水準が到達することとなった。この結果、「いつ利上げを終えるのか?」という部分に焦点が当たる状況が生まれた。利上げを終えるにはその目的になっているインフレが抑制される事が重要となる。この間、世界的なインフレは高水準にはあるものの、低下傾向が確認され始めたことで市場ではたびたび米金融政策の方向転換(つまり利上げの終わり)が取り上げられた。このような状況が生まれたことで直近1年間の安値圏にあった金相場は2022年12月~2023年5月まで利上げ局面にもかかわらず、上昇することになったと思われる。 また、3月には米地方銀行の経営破綻や、スイス大手銀行の経営危機と買収措置などが報じられた。これらの状況が生じた要因には前例のない利上げペースなどが少なからず影響しているとみられ、金融市場の潜在的な不安感として金を購入する理由となったと思われる。 このような金融市場の不透明感に対する対策としての金需要は国家単位でも生じており、欧米資産に依存する形を忌避した新興国の中央銀行の金購入が活発化したことも相場を押し上げる要因になったと思われる。ウクライナ情勢などを背景にトルコや中国などを筆頭に欧米と距離を置きたい国々の金購入が2022年以降本年に入ってからも継続しており、2023年第一四半期(1-3月)には世界の中央銀行の金保有量が前年同期比176%増となった。 5月現在の足元での状況としては、米国の債務上限の引き上げの交渉が難航している。やや恒例的な事例ではあるものの、2011年に同様の同例の合意遅延から米国債の格付けが引き下げられ金融市場に混乱するなどの状況を生んだだけに今後の趨勢は気がかりでもある。このような、不透明な状況が足元の金相場を支えているとみられ、解決の糸口がつかみにくい事象が続いていることが金相場の下支えの要因となっていると思われる。
プラチナ価格の動き
1,000ドル近辺で2022年12月を迎えたプラチナ相場は、2023年1月に米国の利上げペースの鈍化に対する思惑が広がると、金利上昇による経済活動の減速に対する警戒感が和らぎ1,100ドルへと上昇する展開となった。しかし、米1月の消費者物価指数が市場予想を上回ると、前述の利上げペースの鈍化に否定的な見方が広がり、2月にかけて大きく値を下げていく展開となった。一時は925ドル近辺まで下落したプラチナ相場であったが、投機筋を中心に安値を拾う動きが出たほか、主要生産国である南アフリカでは2023年に入り電力供給が不調となっており、これから冬期に向かい電力需要のピークを迎えるにあたって、南アでのプラチナ生産に対する不安材料となっていることなどが買いを後押しする事となり、4月には再び1,100ドル近辺まで上昇した。5月に入ってからも基本的には供給に対する不透明感を背景に底堅く推移し1,000ドル台後半で推移している。
銀価格の動き
2022年12月に22ドル近辺でスタートした銀相場は金相場に追随する形で年末年始にかけて24ドル近辺へと上昇したが、利上げに伴って冷え込む世界経済に対する悲観的な見方から2023年3月には一時20ドル近辺へと大幅に値を下げることとなった。産業用メタルの側面が強いだけにこの時の下げ幅は非常に大きなものとなった。しかし、金相場と比して絶対値の安さという点で欧米を中心に投資家の関心が強い貴金属であり、金相場の下げ幅に比べて明らかに大きな下げであっただけに、値ごろ感を感じた投資家の買いが急増。3月以降は一気に上昇へと向かう事となり4月中旬には一時26ドル近辺まで上昇することとなった。独自要因的な買いが一巡した後は金相場の動きに追随する展開が継続しており、5月中旬時点では23ドル台後半での値動きとなっている。