Precious Metal Price Trends

貴金属の価格動向

何が価格を動かした?

貴金属価格は世界の様々な情勢によって推移しています。
この複雑なマーケットを読み、総合的に判断して、売り買いを執行することが「トレーダー」の役割です。
田中貴金属工業のトレーダーが、2022年5月から11月にかけての金・プラチナ・銀価格の動向を振り返ります。

弊社都合により、本号に掲載の「価格の動き」は2022年5月から2022年11月の7カ月となります。

金価格の動き

金価格の動き

2022年5月1,860ドル近辺で始まった金相場は米連邦公開市場委員会(FOMC)でインフレ抑制を目的に0.5%の利上げを実施するも、その後の米連邦準備制度理事会(FRB)議長が6月以降の大幅な利上げの可能性に慎重な姿勢を示したことから、インフレ進行が継続するとの見方が強まり、一時1,900ドル台を付ける水準まで上昇した。この市場の反応は長くは続かず、FRB高官らによる積極的利上げ姿勢が次々表明されると米長期金利上昇とドル高が急速に進行することとなり、金相場は一時1,800ドルを割れる水準まで値を下げていく事となった。6月に入ると欧州中央銀行もインフレを抑制しようとする姿勢から7月からの利上げの方針を決定、その後発表された米国の物価指数は約40年ぶりの高い伸びを記録したことで、欧米を中心に市場の注目は当局利上げ時期とその規模感へと意識が移っていく事となった。6月のFOMCでは0.75%という歴史的規模での利上げが実施されたものの、市場の見方としては未だ道半ばという見立てが強く、当初はインフレヘッジとしての需要に支えられ1,800ドルを意識した展開が見られたが、7月に入るとそのレベルも割り込んで欧米の利上げが発表される中で1,700ドルを一時割り込む水準まで下落した。5月以降、200ドル近い下落を見せたドル建て金相場であったが、前述の通りドル金利の上昇とそれに伴うドル高という材料が中心であったため、円安も急速に進んでいたことで、円建てでの金価格は大きい振れ幅は見せるものの、基本的には相殺される形で底堅い動きであったのが5月~7月までの特徴となった。8月に入ると米下院議長の台湾訪問をきっかけに米中関係の先行き不透明感が強まり、依然として終わりの見えないウクライナ情勢から連想される地政学的な不安感や、利上げによる景気減速という副作用への懸念もあいまって、金相場は一時1,800ドル台へと回復する場面も見られた。しかし、このような市場の不安とは裏腹に発表されたFOMC議事録の内容やFRB高官の発言は引き続き積極的な利上げ姿勢を崩さず、前述の地政学的リスクへの意識が逸れていくにつれて、再び米超金利高・ドル高の地合いへと戻っていき、9月頭には1,700ドル近辺へと値を戻していく事となった。物価の抑制を急ぐ欧米金融当局の目論見とは裏腹に、物価関連の経済指標ではなかなかその効果を実感するような結果が見られないまま、9月には米国は3会合連続となる0.75%の利上げを発表。欧州中央銀行も9月、10月と3会合連続の利上げを決定し、無国籍通貨故に金利という要素が弱い金相場は1,700ドルの大台も割り込んで9月末には1,625ドルへと値を下げていった。ただし、この水準ではアジア圏を中心に値ごろ感からの買いも見られ、9月末、10月末、11月頭と3度にわたり買い支えられる事となった。11月初旬には米国は4会合連続の大規模利上げを実施。このころからようやく物価指標も高止まりながら、物価上昇が少しずつ落ちつきつつある事で、一方的に進行してきた金利の上昇に対する一方的な見方も多少解消されることとなった。むしろ、年始から3.75%という前例のない利上げ幅に対する世界的な景気不透明感へと市場の注目が移っていく事となり、足元では1,700ドル台を回復し1,750ドル近辺での推移となっている。

プラチナ価格の動き

プラチナ価格の動き

プラチナ価格も基本的には金価格と同様に米長期金利とドル高の影響を受けた動きが中心となる展開となった。ただし、金相場と比べると長い期間でみると下落が続いてきていたことで、既に投機家等から見ると値ごろ感が広がってきていたことや、南アからの生産が全体の6割を占め、ロシアの生産は1割と小さいながらも、ウクライナ情勢等で規制等が強まるロシア情勢などが材料視され下落幅はやや小さい印象であった。ドル建て価格の下落は抑制される中で、急速に進行する円安の影響は円建てのプラチナ価格に上昇要因として寄与している。2022年5月の1,000ドルを挟んだ水準で始まると、その後は欧米の利上げの流れを受けて下落基調となり、7月には850ドルへと下落した。しかし、この水準では値ごろ感からの買いが中華圏などで見られたことから価格は持ち直しを見せた。金相場が1,700ドルを割り込んだ9月頭にはプラチナ相場は再び850ドル近辺まで下落したが、同様に買い支えられたことで、相場は反発へと転じていく展開となった。ドル高が世界的に強まる状況下で上値は重いものの、9月中旬には南アの最大手鉱山会社で精錬設備修復の遅延による、2022年生産予測の下方修正などが発表されると、徐々に価格は押し上げられていく事となり、金相場が上昇に転じた足元11月には1,000ドルを一時回復する場面も見られている。

銀価格の動き

銀価格の動き

23ドル近辺でスタートした2022年5月の銀相場は欧米で進む利上げの状況下で、金相場同様に大きく下落を見せる展開となった。7月に20ドルの大台を割り込むと、その後も上下に大きく乱高下しながら価格を下げる展開を続け、9月には一時17ドル台後半へと下落する場面も見られた。この水準では金よりも相対的な価格が安いことから買いやすいため、投機的な買いも入り価格が支えられると、金相場に比べると産業需要の側面が強いため、景気減速を承知の上で大幅な利上げが前面に押し出されていた8月~10月にかけては上値の重い状況が続いていたが、11月に入りそれらの雰囲気が少し改善に向かってきたことで、20ドル台を回復し、5月の水準に近い22ドル近辺へと値を戻す場面も見られている。