Precious Metal Price Trends

貴金属の価格動向

何が価格を動かした?

貴金属価格は世界の様々な情勢によって推移しています。
この複雑なマーケットを読み、総合的に判断して、売り買いを執行することが「トレーダー」の役割です。
田中貴金属工業のトレーダーが、2021年12月から2022年4月にかけての金・プラチナ・銀価格の動向を振り返ります。

弊社都合により、本号に掲載の「価格の動き」は2021年12月から2022年4月の5カ月となります。

金価格の動き

金価格の動き※テーパリング /中央銀行が超金融緩和状態から抜け出す過程で採用する出口戦略のひとつで、量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくこと。

2021年12月初旬に1,800ドル近辺からスタートした金相場は、世界的に猛威をふるった新型コロナウイルスの影響は断続的な変異種の出現等で継続するもコントロール下に入りつつあるという認識から、正常化が意識される状況へと変化していった。一方で世界的な物価上昇が意識され、特に米国では11月の消費者物価指数(CPI)が6.8%とおよそ39年ぶりの上昇率を示した。
このような状況下でこれまで米連邦準備制度理事会(FRB)は、現在のインフレは一時的との見方を示していたが、12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)ではそれまでの一時的との見方を変化させ、それが定着しないように、量的緩和の終了計画や早々の利上げ姿勢を掲げた。他方、英国の中央銀行は早期利上げにこの時踏み切り、また、欧州中央銀行も、緊急資産購入政策を22年3月で打ち切る等の具体的な金融政策正常化に向けた動きに着手する展開へと舵を切っていったことで米国の金融政策がやや物価抑制に関して出遅れた感が強まると、投機的な売買の動きに価格を上下させつつも、金相場は底堅い推移となった。
2月に入ってからも金融引き締めにより物価上昇が抑え込めるのか?という点が市場では焦点として意識され1,800ドル台後半へと相場を押し上げていった。
しかし、2月24日にロシアが隣国ウクライナへ侵攻したことで事態は急変した。2021年10月頃からロシアとウクライナは国境付近や独立自治区内で対立が激化しつつあり、年明け以降欧米各国はロシアをけん制していたものの、戦争まで深刻化するとの見方をしていた人は少なく、結果この報道のインパクトは大きく作用し有事の金買いを誘発。一時2,000ドル目前まで急騰した。当初、この軍事行動は早期に終息するとの見方が強かったため、急騰後は投機的な利益確定の売りにより一転1,900ドル近辺まで急落した。しかし欧米各国の支援の下、ウクライナは激しい抗戦を見せ、事態が長引くにつれて、再び逃避的な資金流入が再加速することとなった。加えて、この状況下において欧米を中心とした諸外国はロシアを非難し経済制裁を実施。ロシアも報復に動くと、航空便等での物流の遅滞が発生し、また世界最大資源国に対する経済制裁により、エネルギーや金属資源価格が急騰した。これらの動きによる影響から既に高次元にあった欧米の物価上昇懸念はさらに強まり、金相場は一時2,070ドルまで上昇した。このような状況下で市場は米国が利上げを加速させるとの見方に急速に傾斜したことで、米国債利回りは急騰しドル高が進むと金相場は反落。それを追認するかのように3月のFOMCでは想定通り0.25%の利上げが成されると、金相場は1,900ドル近辺まで下落した。
足元ではウクライナ情勢事態も混迷を極め、出口が見えない状態が続いている中で、米3月CPIは8.5%となり利上げのペースが、インフレ率の上昇スピードに追い付けるか否かに焦点が再び移り変わりつつあり、1,900ドル台で大きく上下する状況となっている。
※テーパリング /中央銀行が超金融緩和状態から抜け出す過程で採用する出口戦略のひとつで、量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくこと。

プラチナ価格の動き

プラチナ価格の動き

2021年12月を950ドル近辺でスタートしたプラチナ相場は、2022年の環境関連需要の拡大への期待感や、他非鉄金属の中で上昇率がやや出遅れている事に目を付けた投機的な買いなどから堅調な相場展開となり、1月には1,000ドルの大台を回復した。
2月には温室効果ガス削減へ向け、米政府が水素関連技術の開発に95億ドル規模の資金投入を発表したことで需要拡大への期待感が高まり1,080ドル近辺まで上昇。その後、主にパラジウムではあるがプラチナ系金属の主要生産国であるロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとした供給への不安感などから一段高となると、各国の対ロシア制裁やそれに対する報復によりエネルギーや金属相場の高騰が見られ、プラチナ相場も一時1,160ドル近辺まで急騰する場面が見られた。
しかし、それらの価格上昇が物価上昇という形で世界経済に影を落とすとの見方も根強く、将来の需要減少への不安感から下落に転じると、足元では1,000ドルを割り込んだ水準での推移となっている。

銀価格の動き

銀価格の動き

22ドル台後半で2021年12月を迎えた銀相場は、新型コロナウイルスの影響から正常化への世界的な流れの中で、金相場に比べるとやや上昇に向けての出遅れ感が強かったことから投機的な買いが入り、1月中旬に24ドル台へと上昇。しかしすぐに利益確定の売りが出たことから、2月には22ドル台後半へと値を戻した。前述の通り12月~2月までは金融政策や世界経済の先行きなどを材料に投機的な売買に相場が左右されている感が強かったが、金相場と同様にロシアによるウクライナ侵攻の報道が流れると状況が変化。経済制裁等によるインフレの加速などが懸念され、25ドル近辺へともみ合う水準を一段切り上げた形となった。
足元では、銀相場は金相場に比して安価なため、投機的に参加しやすいことからインフレヘッジとして買われる資産用地金としての側面の動きと、インフレ抑制を目的に各国が進めるであろう金融引き締めと、それに伴う景気減速への懸念から需要減少が予測される産業用地金としての側面の売りが交互に作用し、25ドルを挟んで大きく上下に振り動く状況で推移している。