Precious Metal Price Trends
貴金属の価格動向
何が価格を動かした?
貴金属価格は世界の様々な情勢によって推移しています。
この複雑なマーケットを読み、総合的に判断して、売り買いを行うことが「トレーダー」の役割です。
田中貴金属工業のトレーダーが、2021年6月から11月にかけての金・プラチナ・銀価格の動向を振り返ってみました。
金価格の動き
6月以降の金相場は1,900ドル近辺からスタートし、米物価指標の上昇などから強含むも、年初来高値の1,950ドルまでは届かなかった。
その後は、米国の金融政策縮小や利上げ観測が台頭してきたことにより上値を切り崩しはじめ、1,800ドルを割り込むまで下落する展開となった。
2021年後半にかけては1,720ドル〜1,820ドル近辺のレンジを形成した。上値が抑えられた背景としては、これまでの新型コロナウイルス感染拡大を要因とした経済活動後退を留意し、各国が緩和的な政策をとってきた中でワクチンの普及などにより感染拡大を理由とした背景が薄れ、正常化へのタイミングを見定める動きが強まったことが挙げられる。
レンジの安値圏に近い水準では足元での物価上昇などを背景にしてインフレ警戒などから買われる一方で、レンジの高値圏では物価上昇を抑えるべく進められるであろう米利上げが金に対してネガティブに働くとの見方から売られるという、ほぼ同じ材料が売りにも買いにも適用されるやや後付け感の強い市場環境にあった。
これらの状況を裏付けるように、インフレリスクの評価についても米連邦公開市場委員会(FOMC)内で見方が割れ、加えて米国の雇用環境はコロナ前の状況を取り戻しているとは言いにくい状況が続いていたことで、連邦準備理事会(FRB)は慎重姿勢を崩しにくい状況が続き現状維持決定が続いた。
9月になって、やっとFOMCで緩和縮小開始の条件が示され、11月の会合では全会一致で緩和縮小の意志が示されることとなった。しかし物価上昇を抑えるとされる利上げには、引き続き慎重な姿勢が示された。これらの状況が物価上昇の抑え込みを失敗させる疑念を生む結果となり、将来の利上げを見込む形でドル高が進む一方、インフレ懸念を背景にして金も買われるという珍しい状況が生まれ、結果的に金相場は総じて底堅い動きを見せることとなっている。
プラチナ価格の動き
1,190ドル近辺からスタートした6月以降のプラチナ相場は、金相場と同様にテーパリング※や早期利上げを見定める展開でもあったが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う自動車需要の低下に加えて、半導体の供給不足を背景とした国内外の大手自動車会社の減産報道を受けて需要減少が懸念されることとなった。これにより9月中旬には1,000ドルを割り込み、900ドル近辺まで下落した。
しかし、年初来の安値を記録した後は各種商品市場が軒並み上昇する中で、貴金属の中では割安感が強かったことなどから投機筋の買いが散見され、下落した場面では安値拾いの買いが下支えするという底堅い展開となり、1,000ドルを挟んでもみ合う動きが見られている。
※テーパリング /中央銀行が超金融緩和状態から抜け出す過程で採用する出口戦略のひとつで、量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくこと。
銀価格の動き
28.00ドル近辺からスタートした6月からの銀相場は、6月こそ金相場の下落に追随する展開となったものの、9月にかけては世界中で度重なる新型コロナウイルス感染再拡大に伴う世界経済回復の遅れにより下値を切り下げる展開となった。
加えて、中国の大手不動産開発会社の債務不履行問題による中国経済の大幅な後退懸念の拡大も重石となった。これにより9月末には21.00ドル近辺まで値を下げた。
しかし、10月以降は欧州圏の風力発電の電力供給不足やロシアなどでの石炭やガス価格の上昇により、エネルギー価格の高騰から鉱山の減産や操業停止が行われた。これにより非鉄金属の供給懸念が銀相場にも影響を及ぼしたために反発し、11月にかけて25.00ドル近辺まで値を戻す展開となった。